漫画の中の“ドジッ子”や“アホの子”がだんだん笑えなくなってきた

午前の間に「少年ジャンプ+」の更新をチェックする。それがデキる社会人の優雅な日課。

しかし私、「少年ジャンプ+」でやや苦手な漫画があるんです。苦手っていうかなんだろう……面白くないわけじゃないんだけど笑えない瞬間があって、その笑えないのは作者の技量とかいう話ではなくて自分の内面の問題という話……。

『弓塚いろはは手順が大事!』っていう漫画なんですけど。

 

shonenjumpplus.com

 

■ヒロインに本当に必要なのは適切な療育では……?

 

『弓塚いろはは手順が大事!』は、由伊大輔によるラブコメ。才色兼備の完璧ヒロイン・弓塚いろはは、実は物事の“手順”が狂うとテンパってしまう弱点の持ち主。クラスメイトの弦岡は、ひょんなことから彼女の弱点を知ってしまい、彼女を守ることを約束する……というストーリーです。

大別すると、いろはは、いわゆる“ドジッ子”に区分されるキャラクターでしょう。しかし、私が彼女のドジを微笑ましく見ることができないのは、「“手順”が崩れるとパニックを起こす」という設定に発達障害を想起してしまっているからです。

だから、弦岡が周囲の目からいろはのパニックを上手く隠すことができても、「この子に本当に必要なのは、イメージを守り通すことではなく、苦手分野を認めた上での適切な療育では……?」という気持ちが拭えないのでした。

ここで強調しておきたいのは、私はけっして「『弓塚いろはは手順が大事!』は、発達障害を想起させる漫画だから規制すべき」と言いたいのではないということです。作者にそんなつもりが一切ないのは理解しているし、可愛いラブコメだとも思う。ただ、読んでいると勝手にいろいろ考えてしまう。

 

母親を「飯作る人」呼ばわりするコントに通じるモヤモヤ

 

たとえば、あなたの親しい相手が爆発事故で先日亡くなったとします。そのタイミングで高橋留美子の「ちゅどーん」を見ると、一瞬うっ……となるのではないでしょうか。別に「この漫画は不謹慎だ」と言うつもりはないし、作者を批判したいわけでもない。ただ、いろいろ思い出して笑えないのは事実。そういう感情の話です。

今年10月、「キングオブコント2017」でお笑いコンビ・ゾフィーが披露した、「息子が母親をひたすら『飯作る人』呼ばわりする」というネタに不快感を表明する声が続出しました。これは「母親を『飯』呼ばわりするなんて酷い息子だ」という認識があった上で成り立つコントなので、ゾフィーが男尊女卑的な価値観を持った芸人だということにはなりません。むしろ良識があるからこそ生まれたコントだと言えます。

同ネタに対して「笑えない」という声が寄せられたのは、たとえギャグだとしても“酷い息子”の設定に生々しさを見出して、思わず真顔になってしまった人が多かったということではないでしょうか。

 

アホガール』に「笑っちゃいけない気がする」

 

また、周囲を振り回すアホなヒロイン・よしこを描いたギャグ漫画『アホガール』がアニメ化された際、2ちゃんねるで「アホガールのよしこって、笑いものにしちゃいけない気がする」というスレッドが立てられたのは印象的でした。まとめブログにも取り上げられて、それなりに拡散された話題なのですが、「考えすぎ」という声の一方で、「わかる」と共感する声も多く寄せられていました。

よしこが笑えない人々だって、フィクションにおけるバカキャラすべて笑えないわけではないように思います。おそらく彼らにとって、よしこは何らかの“生々しさ”を感じさせるものがあったということなのでしょう。

 

生々しさを感じないドジ、生々しさを感じさせないアホとは

 

発達障害などへの認知が高まった現代、ドジッ子や天然、アホの子といったキャラクターは、“いろいろ考えさせてしまうタイプの生々しさ”を意図せず帯びてしまう危険性が高くなっているのではないかと考えています。

少なくとも、あるキャラクターが抜けている人物であることの根拠が「忘れ物が異常なほど多い」や「片づけが極端に苦手」のようなものだったら、「これは単純にドジッ子として笑っていいものなのか……?」と多少なりとも迷ってしまう人は今だと一定数いそう。そして、そこで笑えない人を「考えすぎ」というのも不毛な気がする。考えすぎと言われたところで、頭をよぎってしまうものは仕方ない……。

今後はフィクションにドジッ子やアホの子を登場させる場合、「これは笑っていいやつですよ」と読者を安心させるためのバランス感覚というのが必要になってくるのではないでしょうか。生々しさを感じないドジ、生々しさを感じさせないアホ。そこのラインを見極める力とは。

ところで、フィクションにおけるファンタジー的な“アホの子”を現実的な世界観にぶち込んで、そのズレを暴き出すという残酷なことをした作品が、阿部共実による漫画『ちーちゃんはちょっと足りない』と、今村夏子による小説『こちらあみ子』なわけです。どっちも名作だから読んでみてくださいね、というオススメをして終わる。

 

 

 

 

※実験的に弊社メディア「いとわズ」に掲載した原稿を転載してみました。「いとわズ」をよろしくね。

https://itwas.media/